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1969年7月20日に月面に着陸したアポロ11号の月着陸船イーグル以来、地球に持ち帰った月の石の分析が進み、次のようなことが分かってきました。 月は、隕石に比べ地球のマントルの組成に非常に似ていて兄弟説や捕獲説では上手く説明が出来ないことが分かりました。 また、月の化学的組成を上手く説明できる分裂説の欠点は、地球・月系の角運動量だけで月を分離させたとするには力学的なエネルギーが足りないと言うことでした。 そこで近年注目を浴びている起源説がジャイアント・インパクト説です。 「地球のマントルとコアが分離した約46億年前(地球形成から1000万年〜1億年後)に、火星程度の天体が衝突し、地球のマントルの一部を蒸発させ、放出された蒸発物質は月軌道周辺で再び凝固し、集積した。」と言うものです。 ところが原始地球に火星程度の微惑星が衝突した場合には、衝撃の熱でマントルは一部が蒸発し、残りは全て融解してしまいます。 マントルが融解すると内部成分が二酸化ケイ素の多い部分と少ない部分とに分離して、重さの順に綺麗な層が出来てしまいます。 ジャイアント・インパクトが実際に起きたとすると、現在のマントルの化学的組成やその構造から痕跡を見つけることが出来るはずですが、実際には原始地球の表面では岩石の一部が解ける程度の温度(中心部でもコアを形成する鉄とニッケル合金が溶ける程度)までしか上がらなかったためジャイアント・インパクト説にも疑問が出てきます。 このように人類が月面に到達して30年も経とうとする現在でもその起源は、明確に捉えることが出来ていません。 個人的には地球と同時に出来た兄弟説を支持しています。 ただし全てが地球と同時に出来たというわけではなく、月の元となるような塊が地球と同時に出来ていたところに、ジャイアント・インパクトよりはかなり小さな衝突が何度か起き、原始地球のマントル物質が月軌道に放出され、現在の月が形成されたのではないかと考えています。 |
月の表面は多くの点において地球とは違っています。 基本的には、陸の部分(高地)と海の部分に区別されています。 陸(高地)とは用語上、海という概念の対立語として使われています。 陸(高地)の部分とは、肉眼でも見ることの出来る月の明るい部分のことです。 荒涼とした山脈やクレーターに覆われた地域には広域的な名が付いていません。 一方、海の部分は望遠鏡を用いない観測の時代から伝説的な解釈を生んだ暗い部分のことで、ラテン語の印象的な名前が付けられています。 月面の2つの区域はどのようにして出来たのか、現在では次のようなことが分かっています。 急速な集積により重力エネルギーが熱エネルギーに効果的に変換したために、月表面から数百kmの部分が溶融して、巨大なマグマの海が出来ました。 |
マグマの海が冷えるにしたがって、軽い斜長石は表面に浮かび、重い輝石やカンラン石はマグマの海の底に堆積し、月表層部に厚さ数百kmの層状構造が出来きたとされています。 |
月の高地は、おもに斜長石からなる岩石(斜長岩)でできた平原で、その後小天体が衝突して、現在では多数のクレーターに覆われた地域となっています。 |
月の誕生から6億年の間、今から約40億年前までは、太陽系内には月や惑星になれなかった直径数kmの小天体(微惑星)が多数残っていました。 微惑星の中でも直径数十kmの特に大きな微惑星が月に衝突すると、直径数百から千数百km、深さ数kmの巨大な凹地(ベイスン)が出来たものと考えられます。 |
現在の月面には約50のベイスンが認められますが、そのうちで最も新しいものはオリエンタレベイスン(東の海(マレオリエンタレ)の凹地)、その次に新しいものがインブリウムベイスン(雨の海(マレインブリウム)の凹地)です。 |
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ベイスンの形成から数千万年から数億年後の、創世期のマグマの海から冷え固まった深さ数百kmの部分では、カリウム、ウラニウムなどの放射性元素の崩壊熱が蓄積して、岩石の一部が溶け始めました。 しかし、十分な熱がなかったために層全体が溶けたのではなく、低温でも溶けやすい成分だけが溶融して、玄武岩質マグマが発生して行きます。 |
このマグマは、ベイスン形成の衝撃で出来た割れ目を通じて地表に達し、ベイスン内部の低所を埋められて行ったことで、現在の海になったものと考えられています。 |
また、放射性元素の量は層構造の下部ほど少なくなますが、時間が経つに連れて熱が蓄積するために、やがて下層も溶け始めます。 一方上層は熱源となる放射性元素がマグマと一緒に月の表面に運ばれてしまうので熱源が無くなり、固結してしまいます。 従って部分的に溶けた層は時間と共に下の方へ移動して行くために、様々な年代の組成の異なる溶岩で海は埋められて行ったものとされています。 |
地球の時代区分は、古生代、中生代、新生代のように生物の進化によって区分されていますが、生物のいない月の場合にはこのような区分ができません。 しかし、月には雨や風による浸食ながなく、地球のような激しい構造運動もなかったので、地形が長期間保存されています。 ベイスンを作るような巨大衝突では、放出物が月面の広い範囲に飛散・堆積し、良い時間基準面となります。 インブリウムベイスンとネクタリスベイスン(神酒の海(マレネクタリス)の凹地)からの放出物を基準として、次の表のように時代区分されています。 ネクタリス代よりも古い時代区分は、地形が不明瞭なために先ネクタリス代として一括されています。 また、インブリウムベイスン形成以降は巨大な衝突がなかったため、次の基準で時代が区分されています。 インブリウム代〜エラトステネス代の境界は、雨の海のアルキメデスとエラトステネスの間にある溶岩が流出した時期とされています。 エラトステネス代〜コペルニクス代の区分は、光条が時の経過と共に薄くなっていくことを利用して、光条のあるクレーターが出来た時代をコペルニクス代、光条のないクレーターが出来た時代をエラトステネス代としています。 これまでの時代区分は、出来事の前後関係を明らかにする相対年代で、今から何年前に起こったかという絶対年代は、月面9カ所から持ち帰った岩石の放射性元素による年代測定から決めたものです。 |
相対年代 | 絶対年代 | 主な地層名 | 主な出来事 |
コペルニクス代 |
10億年前 34億年前 39億年前 41億年前 46億年前 |
ヘベリウス層 フラマウロ層 ジャンサン層 |
ティコ アリスタルコス コペルニクス 玄武岩質火山活動の終期 ・ ・ ・ エラトステネス ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 玄武岩質火山活動の活性期 オリエンタレベイスン(東の海) インブリウムベイスン(雨の海) クリッシュムベイスン(危難の海) ヒュモラムベイスン(湿りの海) セラニタスベイスン(晴れの海) ネクタリスベイスン(神酒の海) フェクンティタテスベイスン(豊の海) トランキリタスベイスン(静かの海) ニンバスベイスン(雲の海) プロセラルムベイスン(嵐の大洋) 月の誕生 |
エラトステネス代 |
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インブリウム代 |
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ネクタリス代 |
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先ネクタリス代 |
月面が古いほど、その上に出来る衝突クレーターの数は増加します。 岩石の採集された地域での衝突クレーター数と絶対年代には以下のような関係があります。 海の衝突クレーター数は高地の1/10以下ですが、これは高地が海よりも10倍古いと言うことではなく、38億年以前の衝突クレーター生成率が極めて高かったためです。 また約38億年前には、衝突クレーターの急激な減少と海を作る玄武岩質マグマの盛んな流出が重なりました。 このため、クレーターの多い起伏に富んだ高地と溶岩に満たされた暗く平らな海という月の特徴的な地形が創り出されました。 月の海を作った玄武岩火山活動は、38億年前から20億年前までは活発で、最後の活動は10億年前に終わったと考えられています。 |